1. なぜ配管支持金具は腐食しやすいのか
鉄は水分と酸素があればサビます。配管支持金具が置かれる場所は、意外とこの2つがそろいやすい環境です。
- 天井裏やピットで結露が発生する
- 冷温水・冷媒・給水配管が近くにあり表面温度が下がる
- 外気に近い機械室・屋上で雨水や湿気にさらされる
- 排水管の漏れ・ドレンの飛び散りが起きやすい
- ステンレス管や銅管と鉄金具が接触して「異種金属接触腐食」が起きる
このように、配管は健全でも「それをつかむ部材」だけが先に傷むケースは珍しくありません。だからこそ設計段階で腐食リスクを見込んだ仕様にしておくことが大事です。
2. 腐食を防ぐための基本的な考え方
鉄の配管支持金具の腐食対策は、大きく次の4つに分けて考えると整理しやすくなります。
- 腐食しにくい素材・表面処理を選ぶ
- 水がたまらない・触れない納まりにする
- 異種金属による電食を防ぐ
- 点検しやすいようにして劣化を早く見つける
どれか1つで完璧に防ぐというより、環境に合わせて組み合わせるのが現実的です。
3. 素材・表面処理の選定
最初に効くのは「そもそもサビにくい仕様にしておく」ことです。
- 溶融亜鉛めっき(HDZ・溶融亜鉛鍍金)
屋外や高湿度の機械室では標準的な選択肢です。電気亜鉛めっきより皮膜が厚く、赤サビの発生を遅らせられます。 - 電気亜鉛めっき+塗装
室内で湿気が少ない場所ならこれで十分な場合もあります。仕上げ塗装でピンホールを減らすとさらに良いです。 - ステンレス製支持金具
腐食性の高い場所(厨房排気の近く、海浜部、屋外で常時散水があるところなど)は思い切ってSUS製を採用するほうがライフサイクルコストで有利なこともあります。 - 防錆塗装仕様の指定
設計図書に「切断部・ボルト部は現場で防錆塗装を補修すること」と書いておくと、施工時の傷からのサビを減らせます。
ここでのポイントは、「どの環境に置かれるか」を先に想定してグレードを決めることです。湿気や結露が常態化する場所に室内標準のめっき品を使うと、数年で赤サビが目立ち始めます。
4. 水をためない・触れさせない納まりにする
腐食は、水がとどまるところから始まります。配管支持金具まわりで次のような工夫をしておくと進行が遅くなります。
- ドレンや漏水が当たる位置に金具をつくらない
エアコンのドレンや排水の継手の真下にハンガーを置くと、常に濡れます。吊り位置をずらすだけで寿命が変わります。 - 雨水が抜ける向きで金具を取り付ける
U字部分が上向きだと水がたまりやすいので、できるだけ水抜けの良い姿勢にします。 - 断熱材の外に支持金具を出す場合は防水処理をセットにする
冷水配管で結露が起きると、そこからサビが進行します。金具接触部には防露テープ・ブチルテープなどを併用します。 - 汚れがたまらないクリアランスを確保する
ほこり+水分はサビの栄養になります。掃除できる隙間を設けるのも実は腐食対策です。
5. 異種金属接触腐食(電食)を防ぐ
鉄の配管支持金具に、銅管やステンレス管をそのまま固定すると、電位差によって鉄側が先に腐食することがあります。これを避けるには、
- 配管と金具の間に絶縁ライナー・ゴムシート・樹脂ライニングサドルを入れる
- 異種金属が長時間濡れた状態にならないよう、結露・漏水を防ぐ
- 可能であれば同系材質の金具を選ぶ
といった方法が有効です。絶縁部材はコストアップしますが、屋外のステンレス配管などでは効果が高いので、設計時に品番まで指定しておくと施工でブレにくくなります。
6. 点検しやすいディテールにしておく
腐食は「気づくのが遅れたとき」に事故になります。よって、初期設計の段階で以下を意識しておくと、運用フェーズが楽になります。
- 天井点検口の近くに配管群をまとめ、支持金具が目視できるようにする
- 機械室・ポンプ室は照度を確保し、床から手が届く高さに支持を配置する
- 図面や要領書に「年1回のボルト増し締め・防錆補修」を記載しておく
「見える化しておく」ことも、広い意味での腐食対策です。
7. 設計時に書いておきたい仕様例(イメージ)
配管支持金具は、原則として溶融亜鉛めっき品とし、現場加工部は防錆塗装を施すこと。銅管・ステンレス管をクランプする部分には絶縁ライナーを介在させ、結露の恐れがある部分は防露テープを併用すること。屋外露出部は水抜けの良い向きで取り付け、定期点検で腐食が認められた場合には再塗装または取替を行うこと。
この程度でも図面に一文あるだけで、現場が「そこまでやる案件だ」と認識してくれます。
8. まとめ:ライフサイクルを見て選ぶのが正解
鉄の配管支持金具は、安価で汎用性が高い一方、環境次第で寿命が大きく変わります。
「どこに付くか」→「どれくらい濡れるか」→「その割に表面処理は十分か」→「異種金属になっていないか」→「点検できるか」
この流れでチェックすると、過不足のない腐食対策がしやすくなります。設備は使われてからが本番です。初期に少し良い仕様を選んでおくことで、10年後・15年後の補修コストやトラブル対応をぐっと減らせます。

